半導体とは何か?をわかりやすく解説~理科の授業で習う説明ではわからない半導体の仕組み~
はじめに
理科の授業で物質の性質を学ぶときに導体は電気を通すもの、絶縁体は電気を通さないもの、そして半導体は「導体と絶縁体の中間の性質を持つもの」と習った方も多いと思います。この記事を読んでいるということは、半導体の説明について疑問に思った方や詳しく知りたい方と思いますが、筆者は習った当時、この説明に疑問すら感じませんでした。しかし、電気系エンジニアを志すようになり、半導体を学問として学んだ時に、理科の授業の説明では半導体「らしさ」が伝わらないなと思うようになりました。
本記事では、電気電子工学を一通り学んだ筆者が半導体とは何か?についてわかりやすく解説します。
まず初めに半導体とは何か?筆者の解釈を述べた後、半導体の構造について解説します。その後、半導体の性質の一例として、ダイオードについて説明します。
この記事を読めば、理科の授業で習った「導体と絶縁体の中間の性質をもつもの」の意味が具体的になり、半導体の概要が理解できると思います!
この記事を読むことでわかること
- 半導体の本当の意味
- 半導体の構造
- 半導体の性質の一例:ダイオード
半導体とは?
半導体は「導体と絶縁体の中間の性質をもつもの」と説明されますが、筆者の解釈で言語化すると、「ある条件では導体の性質、それ以外の条件では絶縁体の性質になり、その条件は電気的に制御(コントロール)される」ものと考えています。
少しわかりにくい表現かもしれません。例えば、部屋の照明をつけるときは、スイッチを押すという操作が必要ですが、スイッチを押す前は電気が流れない状態になっていて、スイッチを押すことで電気が流れる状態になり、照明がつきます。
半導体はスイッチのようなもので、スイッチの入(導体の性質)、切(絶縁体の性質)が電気的に制御(コントロール)されるイメージです。しかも、人間では到底できない早さでかつ正確に制御されます。これこそが「半導体らしさ」と考えています。
ではどうやって半導体は導体の性質になったり、絶縁体の性質になったりするのでしょうか。その秘密を知るためには原子の構造から迫っていく必要があります。
補足:
半導体は上記で説明したスイッチとしてだけではなく、使う半導体の種類や構造などを工夫することにより以下の機能を持たせることもできます。半導体は利用目的に応じた機能に特化させた設計が行われています。本記事では最もわかりやすく馴染みのあるスイッチとしての機能に絞って紹介しています。
- 高速でオン、オフ制御を行う(スイッチ)
- 入力した信号を増幅して出力する(アンプ)
- 電気⇔光のエネルギー変換を行う(太陽電池、LEDなど)
原子の構造
この世の中の全てのものは、原子の集合体です。この記事を読んでいるあなたも記事を映している画面も原子がたくさん集まってできています。原子はあまりにも小さく、目視はできませんが以下のように原子核を中心として、電子が軌道を描いて飛び回っているような構造をしています。原子核が太陽、電子が地球やその他太陽系の惑星のようなイメージです。原子核は+(プラス)の電気を持つ陽子と電気を持たない中性子で構成されています。また、電子は-(マイナス)の電気を持っています。
通常は+の電気を持つ陽子の数と-の電気を持つ電子の数は等しく、原子全体としては+と-が打ち消し合って電気を持たない中性の状態になります。プラスマイナスゼロということですね。しかし、原子に対して外部からエネルギーを加えると、陽子の数が電子の数よりも多くなり、原子全体として+の電気を帯びた状態になったり、陽子の数が電子の数よりも少なくなり、原子全体として-の電気を帯びた状態になったりします。例えば、ストローとティッシュをこすり合わせる(=エネルギーを加える)と、ストローが-の電気、ティッシュが+の電気を帯びた状態になります。
原子が持つ陽子の数と電子の数により、原子全体として中性の状態、+の電気を帯びた状態、-の電気を帯びた状態の3つがあることを覚えておいてください。
以上が原子の構造の基本になります。もちろん半導体も原子の集合体になりますが、半導体ではその原子の状態が意図的にコントロールされているのです。
次章で詳しく述べていきます。
半導体の構造
代表的な半導体の材料であるシリコン(ケイ素、元素記号:Si)を例に詳しく説明していきます。
まずはシリコン原子の構造からみていきましょう。シリコン原子の構造は以下のようになっており、原子核の周りを14個の電子が飛び回っています。電子は-の電気を持っていますので、シリコンの原子が中性であるためには原子核に陽子を14個持つことになります。
注:上図は原子の構造を簡単に表したものです。
実際の構造はもっと複雑です。
半導体はこのシリコン原子が集まってできていますが、どのように集まっているのかを説明していきます。
先ほどのシリコン原子の図には殻(かく)と呼ばれる電子の軌道が3つあり、一番外側の軌道には電子が4個あります。実はこの軌道上にある4つの電子は「居心地が悪い」状態で、「居心地が良い」状態になろうとして仲間を集めます。
何の話?と思われる方もいると思いますが、あまり話したことがない人と一緒になった時に仲の良い人だったり、よく見知った人に助けを求めたくなるような気持ちになるのと同じだと思ってください。(笑)
この時に救世主となるのが別のシリコン原子4つです。これらと手を組んだ結果、中央のシリコン原子の一番外側の軌道には電子が8個入ることになります。この状態こそが「居心地の良い」状態になります。
しかし、救世主となった別のシリコン原子も同じ悩みを抱えているので、同様に仲間を集めようとします。この活動が別のシリコン原子にどんどん広がり、ひとつひとつは小さいシリコン原子が集合して私たちが目にできる大きさの「かたまり」を形成しているのです。これを専門的な言葉では「共有結合」と呼びます。
今説明した内容はシリコン原子が持つ性質になります。そこに人間の意図や思惑のようなものはありません。そこで、シリコン原子のこの性質を利用して人間がある細工をします。ここからが半導体を理解するためのポイントです。
皆さんは理科の授業などで元素周期表というのを目にしたことがあると思います。この周期表には特徴があり、一番外側の軌道にある電子の数がわかるようになっています。14列目はシリコン(Si)などで電子が4つ、その左隣の13列目は電子が3つ、右隣の15列目は電子が5つといった具合です。
ここで、先ほどの共有結合したシリコンの一部を人間の手によって電子が5つのリン(P:元素番号15)に置き換えたとします。すると、電子が1つ余って自由に動くことのできる電子(自由電子)になります。
このように自由電子を持つ半導体をn型半導体と呼びます。n型の「n」は「negative:負」の意味で、電子の持つ-の電気を表しています。
一方で共有結合したシリコンの一部を人間の手によって電子が3つのホウ素(B:元素番号5)に置き換えた場合を考えてみます。この場合は電子が1つ足りない状態になりますが、「居心地が悪い」ので、自由電子を調達しようとします。
このように自由電子を求める半導体をp型半導体と呼びます。p型の「p」は「positive:正」の意味で、電子が足りないことを表しています。
このn型半導体とp型半導体を組み合わせることで、真の力を発揮し「半導体らしさ」を表すようになります。次章でその例を見ていきましょう。
半導体の例:ダイオード
ダイオードとは?
まずはダイオードが何なのかについて簡単に説明しておきます。ダイオードとは電流が決まった方向にしか流れない半導体です。ダイオードにはアノード(A)とカソード(K)があります。アノードからカソードに流れる電流に対してはダイオードは導体の性質を示し、電流を流します。反対にカソードからアノードに流れる電流に対しては絶縁体の性質を示し、電流を流しません。すなわち、アノードからカソードの方向にしか電流を流さない半導体と言えます。
補足:そもそも電流って?
一言でいうと電子の流れのことです。
水が高い場所から低い場所に流れ落ちるように、電流は電圧の高いところから低いところに向かって流れます。その時、電子がビュンビュンと通過しています。但し、電流の向きと電子の流れる向きは反対であることに注意が必要で、電子は電圧の低いところから高いところに向かって流れていきます。
ダイオードの構造
ダイオードはp型半導体とn型半導体をくっつけた構造をしています。
p型半導体側がアノード、n型半導体側がカソードになります。
p型半導体は電子が足りない状態、n型半導体は電子が余っている状態ですので、この2つをくっつけることでn型半導体からp型半導体へ電子の移動が起こります。
例えるなら、p型半導体が開演前のライブ会場で席が空いている状態(電子をさあどうぞと言わんばかりに待ち受けている状態)、n型半導体がライブを心待ちにしているファン(自分の居場所を求める電子)になります。2つをくっつけることで、ライブ会場(p型半導体)への入場がスタートし、ファン(n型半導体の電子)が一気になだれ込むといった形です。ライブ会場(p型半導体)に到達したファン(電子)は自分の居場所を確保し、席が埋まります。これにより、n型半導体からは電子がなくなっていき、p型半導体では電子の席がなくなっていきます。
しかし、ライブ会場には定員があるように全ての電子がn型半導体からp型半導体に移動することはできません。電子の移動を邪魔する力(クーロン力)が電子の移動と共に徐々に働いて、最終的には動けなくなってしまいます。ライブ会場の定員に達すると入場口が閉じ、それが壁として立ちふさがっているイメージです。電子はn型半導体からp型半導体へ移動したいけど、壁があって移動しようにもできない、ダイオードは常にこの状態にあると考えてください。
ダイオードの性質
ダイオードに電圧をかけてみて、その性質を探っていきましょう。
まずはp型半導体側(アノード)が+、n型半導体側(カソード)が-になるように電圧をかけてみます。そうすると、電子の移動を邪魔する力(クーロン力)が弱くなり、電子がn型半導体からp型半導体へ移動できるようになります。ダイオードの中にあった壁が低くなるイメージです。電流は電子の流れですが、壁が低くなったことでダイオード内部を電子が移動できるようになり、電流が流れます。電流が流れるということは、この条件では導体の性質になります。
先ほどとは逆にp型半導体側(アノード)が-、n型半導体側(カソード)が+になるように電圧をかけてみます。
そうすると、電子の移動を邪魔する力(クーロン力)が強まることになり、電子はn型半導体からp型半導体へ移動できないままです。ダイオードの中にあった壁が更に高くなるイメージです。よって、電子の移動が起こらないため電流は流れません。電流が流れないということは、この条件では絶縁体の性質になります。
以上のことから、ダイオードの場合は最初に説明した「電気的な制御」とは「電圧をどうかけるか」で、その条件により導体の性質または絶縁体の性質を示していると言えます。
まとめ
ここまでお読みくださりありがとうございました。
ダイオードの他にも様々な役割を持つ半導体が開発されており、パソコンやスマートフォンはもちろん、ほぼ全ての電化製品に利用されています。半導体が開発され、電化製品などに利用されるまでには電気電子系のエンジニアが活躍しています。これからも新たな半導体が開発、利用されることにより、私たちの生活はより豊かになっていくことでしょう。本記事が電気電子工学に興味を持つきっかけになると幸いです。
以下、本記事のまとめになります。
半導体とは?
「ある条件では導体の性質、それ以外の条件では絶縁体の性質になり、その条件は電気的に制御(コントロール)される」もの。人間では到底できない早さでかつ正確に制御される。
半導体の構造
半導体は電子の過不足を人の手によってコントロールしたもので、自由電子を持つ半導体をn型半導体、電子が足りない半導体をp型半導体という。
n型半導体とp型半導体を組み合わせることで、導体の性質と絶縁体の性質を電気的にコントロールできるようになる。
ダイオードの性質
アノード側が+、カソード側が-になるように電圧をかけると導体の性質を示し、電流が流れる。
→ダイオード内部の高い壁が低くなるイメージ。
カソード側が+、アノード側が-になるように電圧をかけると絶縁体の性質を示し、電流は流れない。
→ダイオード内部の高い壁が更に高くなるイメージ。
ダイオードは電圧のかけ方によって導体または絶縁体の性質に制御されていると言える。
参考文献
- 電気磁気学 [第2版] 森北出版 安達三郎/大貫繁雄 2002年
- 電気電子材料 コロナ社 中澤達夫 他4名 2005年
- 入門演習 パワーエレクトロニクス EnergyChord 横関政洋 2017年