雷発生のメカニズムと避雷針の役割 ~人や建物、そして電力システムを雷からどのように守っているか?~
はじめに
雷と避雷針は私たちの日常でよく見聞きしますが、これらの関係についてよく知らない人も多いのではないでしょうか。
本記事では、雷がどのようにして発生し、なぜ避雷針が重要なのかについて難しい専門用語をなるべく用いずに分かりやすい言葉で説明し、雷から人や建物をどのようにして守っているかを解説していきます。
また、電力システムも建物と同様に雷にさらされますが、私たちが雷雨の日であっても電気を安全に使えている秘密を解説します。この記事を読むことで、雷と避雷針について理解を深めつつ、雷という身近な現象が電気電子工学に深く関わっていることを知ることができます。
この記事を読むことでわかること
- 雷が発生するしくみ
- 避雷針の必要性
- 電力システムにおける雷対策
雷が発生するメカニズム
皆さんはドアノブなどに触れた際にバチッときたことはないでしょうか?
これは「静電気放電」と呼ばれる現象で歩行などにより衣服に摩擦が起きて電気が溜まっていき、ドアノブなどの金属部に触れることで溜まった電気が一気に放電されることで起きます。
実は雷もこの「静電気放電」と同じ現象なのです。
ではどうやって雷のような壮大で恐ろしい現象に発展するのでしょうか?
まず初めに雷雲が発生するまでの流れを説明していきます。雷雲は地上から上空に向かう空気の流れ(上昇気流)があることで生まれます。上昇気流により空気中の水分が巻き上げられ、上空へ向かいます。上空は地上に比べて気温が低いので巻き上げられた水分は個体(氷)になります。これが私たちが目にする雲です。雲の中の氷の大きさは様々で粒子のような小さなものから、ひょうやあられのような大きなものまであります。これらが雲の中でぶつかり合うことで摩擦が起こり、粒子のような小さな氷はプラス(+)の電気をひょうやあられのような大きな氷はマイナス(-)の電気を帯びます。+の電気を帯びた軽くて小さな粒子は上昇気流に乗って雲の高いところに集まりますが、-の電気を帯びた重くて大きなひょうやあられは重力により雲の下の方に集まります。これにより、雲の中で+と-の電気に偏りが起こり雷雲になります。
続いて雷が発生するまでの流れを説明していきます。+と-の電気は引きつけ合う性質がありますが、雷雲の下の方にある-の電気に大地の+の電気が引きつけられ、雷雲の真下に集まっていきます。雷雲の下に溜まった-の電気が多いほど大地の+の電気は集まりやすくなります。+と-の電気が引きつけられてお互いが出会うことで放電になりますが、+と-の電気は空気の層に阻まれているため、中々放電できません。しかし、空気の層をくぐり抜けるほどたくさんの電気が集まることで、+と-の電気が出会い壮大な音と光を伴う放電、すなわち雷になるのです。
避雷針の役割
雷は壮大な自然現象ですが、私たちがどこで起きるかわからない静電気放電にビビりながら生活しているように雷もまたどこに落ちるのか予測が難しいものです。雷雲の周辺というある程度の範囲は予測できますが、万が一人や建物に落ちた時の被害は大きいので、安全を確保するための対策が必要となります。そこで避雷針の出番ということです。
避雷針は雷にとってパワースポットのようなもので、地上の+の電気が集まりやすい場所になっています。避雷針の役割とはズバリ、+の電気と-の電気による放電つまり雷が発生しやすいところを敢えて作ることで雷を避雷針に導き、人や建物を守ることにあります。避雷針という名前から、避雷針の周辺から雷を「避けている」ように思えますが、実際は避雷針に雷を「導く」ことで、人や建物が雷から守られていることになります。
雷が避雷針に落ちる仕組み
まず初めに、雷が避雷針に落ちる仕組みを理解するためにとても大切な放電のしやすさについて紹介しておきます。放電は+の電気と-の電気が出会うことで起きる現象ですが、これらの電気の量が多ければ多いほど、そして+の電気と-の電気の間にある空気の層が薄ければ薄いほど、放電しやすくなります。
すなわち、避雷針は
- 地上の+の電気を多く集める
- 雷雲に近い場所に設置する
ことが重要ポイントになります。
以上のことから、避雷針は地上の+の電気を多く集めるため、金属の線で大地に直接接続されています。金属は電気を通す性質があるので、地上の電気を効率よく集めることができるのです。また、避雷針はより雷雲に近い建物の屋上や屋根などに設置されます。
このように放電のしやすさを利用し、周囲の人や建物よりも避雷針に放電が起きやすくすることで、雷を導いて人や建物の安全を確保しているのです。
しかし、避雷針には人や建物を保護できる範囲があります。例えば、45mの建物の屋上に設置したとして、35°が保護範囲になります。この場合、地上では約63mの範囲でしかなく、避雷針1本当たりの保護範囲は狭いです。そのため、避雷針は建物ごとに設置することが基本となっており、特に20mを超える建物は20m以下の建物に比べて落雷のリスクが高いので、避雷針の設置が法律(建築基準法)で義務付けられています。因みに工場の建屋など横に長い建物は複数本設置することもあります。戸建て住宅のような低い建物は落雷リスクが低く、法律でも規定されていないことから避雷針を設置しない場合がほとんどだと思います。
雷に対しては人や建物の安全はこのようにして確保されますが、私たちにとってより身近なのは雷によって停電しないか心配になることではないでしょうか。そこで、次章では電力システムにおける対策は何なのか、落雷によってなぜ停電が起きるのかについて説明します。
電力システムにおける雷対策
電力は発電所から家庭や工場などへ全国に網のように張り巡らされた送電線によって運ばれます。そのため、雷雲あるところに送電線ありと言っても過言ではないです。また、送電線は私たちに危険が及ばないように鉄塔に支えられ、高い所に設置されています。鉄塔は100m以上の高さになるものもあります。これらのことから、落雷に対するリスクは建物よりも高いと言えます。
雷が送電線に落ちるとどうなるか?
電力システムでは送電線という「電気の通り道」を作ることで発電所から工場や家庭へ電力を安全に運んでいます。この「電気の通り道」は私たちに危険が及ばないように、「がいし」によって大地から切り離されて(絶縁されて)います。
しかし、雷が送電線に落ちると、「がいし」による絶縁が破られて「電気の通り道」が大地とつながってしまい、電力を安全に送れなくなります。この状態が続くと発電機や送電線といった設備が壊れてしまい、長期間の停電になるおそれがあります。
以上のように落雷による影響はとても大きいため、電力システムにおける対策は必須です。
送電線における対策
雷から電力システムを守る方法はいくつかありますが、その中でも送電線における対策を紹介します。
建物では避雷針で対策を行っているように、送電線にも避雷針のような役割をするものを設置することで、雷が送電線に落ちることを防いています。具体的には鉄塔の頂上と頂上の間を金属の線で接続することで送電線を上からバリアするようにして実現しています。送電線は建物とは違い、網目のように張り巡らされているという特徴があるので、鉄塔の上に避雷針を設置する方法では、保護できない箇所ができてしまいます。そのため、避雷針を線状にして設置しているのです。これを「架空地線」(読み:がくうちせん)と呼びます。
雷という自然現象は人間がコントロールできるものではないため、残念ながら落雷から送電線を完全に保護することはできません。架空地線による保護を破って送電線に雷が直撃する場合もありますし、架空地線で防いだとしても、雷のエネルギーが大きすぎて、雷を大地に流しきれず送電線に侵入してしまうケースがあるのです。そのため、架空地線で防ぎきれなかった場合の対策を行う必要があります。
その対策として保護リレーと遮断器というものがあります。
保護リレー:
送電線に流れる電流や送電線の電圧から落雷により「電気の通り道」が変わってしまったことを検出し、遮断器に対して指令を送る装置
遮断器:
保護リレーから指令を受けて「電気の通り道」を文字通り遮断(切り離し)する装置
これらの装置により落雷による影響を電力システムから取り除くことができます。いきなり専門的な言葉が出てきて少し難しいかもしれません。送電線を道路に例えると、道路で交通事故(落雷)が発生した時に事故の発見者(保護リレー)が警察や消防など(遮断器)に連絡し、警察や消防などが怪我人の救急搬送や事故車両を撤去し、事故処理を行うようなものです。
「電気の通り道」が無くなったことで、電力を送れなくなってしまいますが、電力システムには電力を送るための経路が複数あるので、別のルートで送電を継続することができます。交通事故が発生したことで道路が通行止めになっていても別のルートで目的地にたどり着くことができるのと同じです。しかし、電力を送る経路がひとつしかない箇所に雷が落ちたり、落雷の数が多いことより全ての経路が無くなってしまった場合には残念ながら停電していまいます。
そのため、「電気の通り道」が無くなったままにならないように、保護リレーで電気を安全に送れることを確認した後、遮断器に対して指令を送って「電気の通り道」を開通し、落雷前の状態に戻します。これは交通事故の処理が終わって道路の通行止めを解除するようなものです。このように電力システムでは雷が落ちても停電しにくいように工夫がされています。
まとめ
ここまでお読みくださりありがとうございました。
以下、本記事のまとめになります。
雷が発生するメカニズム
雷はドアノブなどに触れた際にバチッとなる「静電気放電」と同じ現象である。
以下の流れで雷は発生する。
- 雲の中で大きさの異なる氷の粒がぶつかり摩擦されることで+と-の電気が発生
- 重い氷の粒(ひょうやあられ)は雲の下へ軽い氷の粒は雲の上に移動することで電気の偏りが生じる
- 雲の下にいるひょうやあられは-の電気を持つので、大地から+の電気が集まる
- たくさんの電気が集まり、空気の層をくぐり抜けて+と-の電気が出会うことで雷が発生する
避雷針の役割
- 避雷針は大地から+の電気が集まりやすい場所になっている
- 避雷針に雷を導くことで人や建物を守る
電力システムにおける雷対策
- 雷が送電線に落ちると「電気の通り道」が変わって電力を安全に送れなくなる
- 送電線では架空地線(がくうちせん)という線状の避雷針により雷から守っている
- 架空地線で雷を防げなかった場合に備えて保護リレーと遮断器による対策を行っている
参考文献
- これだけは知っておきたい電気技術者の基礎知識 電気書院 大嶋輝夫/山崎靖夫 2010年
- EE Text 高電圧パルスパワー工学 オーム社 秋山秀典 2003年
- JIS規格における受雷部システムの保護方法 株式会社サンコーシヤ